食団連 佐藤裕久代表理事が淡路島・西海岸1万坪で証明したこと
第1回で「食産業を日本の基幹産業に」というマクロのビジョンを語った食団連・佐藤裕久代表理事。第2回は、佐藤代表理事が9年をかけて街創りを続けてきた淡路島・西海岸での実証を通じて「食には街を創る力がある」という信念の根拠を伺う。聞き手は食団連・広報メンバーの和田裕直氏(NPO法人居酒屋甲子園9代目理事長/株式会社てっぺん 代表取締役)。
阪神淡路大震災で取り残された土地を、9年かけて街に
和田:佐藤代表理事が淡路島の西海岸で展開されている取り組みは、業界の中でも特別な存在として知られています。改めて、どんな現場なのか教えてください。
佐藤代表理事:もともとは、釜揚げシラスの加工場の横の野原でした。1995年の阪神淡路大震災以降、放置されていた土地です。2017年から少しずつ土地を買い始めて、9年間買い続けてきた。2019年に1軒目のレストラン「GARB COSTA ORANGE」をオープンして以降[^1]、このエリアに23施設のレストランやホテルなどを展開してきました[^2]。
エリア全体で約1万坪。年間約40万人が訪れ、年間売上は約12億円。もともと田舎の道で歩道もなく、ほとんど人が歩いていない場所だったんです。でも、私有地ではない市道を整備して歩道にし、人が歩きたくなる街並みを創っていった。
食は、客単価×客数の方程式の外側にも価値がある
佐藤代表理事:これは「食には実はそんなに力があるんだ」ということなんです。食は単にご飯を提供する行為ではなくて、楽しさや感動を生み出すきっかけになる。夕日を眺めるだけでもいい、でもそこに美味しい一杯があれば、もっと特別な時間になる。バースデーケーキを出してあげたら、その瞬間は一生の記憶になる。

和田:弊社てっぺんでも「本気の朝礼」を通じて、スタッフ自身が輝いて働くことで、お店という空間そのものに価値が生まれる、ということを大切にしてきました[^3]。食の現場が、料理を超えた体験を生み出すというのは、まさに本質だと感じます。
佐藤代表理事:「淡路島は今ブームじゃないですか」と言われるのは分かっています。だから僕は、レストランだけではなくて、農業もやっている。食の基本は食材です。食材を蔑ろにしては絶対にいけない。やってみて分かったけれど、農家さんは時給換算すると本当に低い水準で働かれていることが多い。
生きるうえで「食」がどれだけ大事なものか、自分たち自身が認識するための取り組みでもある。生産者の気持ちも、少しだけですが分かるようになってきました。だから「みんなもやろう」と、レンタル農園も始めています。
出雲、そして「住みたくなる街」へ
佐藤代表理事:次のステージが、島根・出雲です。レストランとホテルを開業し[^4]、ホテルの稼働率は極めて高く、ゴールデンウィークには1泊10万円規模の部屋もしっかり埋まる。島根・鳥取エリアでミシュラン・キーを獲得しているホテルは、現時点でうちだけです[^5]。

それでも、僕は満足していない。なぜなら、人が集い、職を持ち、働き、恋をし、家庭を築き、子供を育み、未来を見つめる──そういう「住みたくなる街」になるには、まだ何かが足りないからです。
食団連が地方支部の活動に力を入れているのも、ここに理由があります。地方には本当に苦悩がある。でも、食を支えているのは、その地方にいる生産者であり、漁業、畜産、酪農、農業の人たちです。いい食材を東京に集めてくるのではなく、僕らの方から食材に寄っていく。その発想の転換が必要だと考えています。
食団連は「利権団体」ではなく「可能性の団体」
佐藤代表理事:食団連は、外食産業の利権を守るためだけの団体ではありません。食の持っている可能性というのは「客単価×客数」の計算式で出てくる、単なる数字ではないと思います。

生産者の顔が見えて、その思いをつないだ一皿、料理を彩る食器があって、その料理を食べる居心地のいい空間があり、子どもたちが安心して住める街がある。美しい風景があり、そういう要素を複合的につなぎながら、日本の食の価値を国内外で高めていく。それこそが、食団連の仕事だと考えています。
和田:「住みたくなる街」を作るところまでが食の役割──。居酒屋甲子園で全国の繁盛店を訪問していても、地域に根ざしている店ほど、お客様にもスタッフにも長く愛されている実感があります[^6]。
第二回の総括(和田)
「食」が単なるサービス業ではなく、街や地域、ひいては産業の風景を変えていく力を持つという視点は、外食事業者である僕たちに、勇気と気づきをもたらしてくれます。次回はいよいよ最終回。いまこの瞬間、苦境のなかで踏ん張っている経営者へ、佐藤代表理事が伝えたい言葉と、原点である「玉ねぎスープ」の物語を伺います。
出典・参考文献
[^1]: 株式会社バルニバービ「【NEW OPEN/淡路島初出店】瀬戸内海に沈む美しい夕日を一望する3階建て一棟・300席のレストラン『GARB COSTA ORANGE』」2019年4月27日オープン。 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000111.000025087.html
[^2]: 佐藤裕久 Wikipedia「2019年4月27日、地方創再生プロジェクト第二弾として淡路島西海岸に3階建て一棟(300席)のレストラン『GARB COSTA ORANGE』を開業。2023年1月末には同エリア内に10店舗以上のレストラン・ホテルを開業し『住みたくなる街づくり』をテーマに掲げ、淡路島活性化の一躍を担っている」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%90%E8%97%A4%E8%A3%95%E4%B9%85
[^3]: 株式会社てっぺん「本気の朝礼が国内外から年間1万人を集める」 https://teppen.co/company/
[^4]: 株式会社バルニバービ「KAMOME SLOW HOTEL」島根県出雲市にて2023年開業。 https://www.balnibarbi.com/
[^5]: ミシュランガイド「ミシュラン・キー」はミシュランガイド掲載の宿泊施設に与えられる評価指標(2024年から開始)。 https://guide.michelin.com/
[^6]: NPO法人居酒屋甲子園 公式サイト https://izako.org/