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【連載第1回】食産業を日本の基幹産業へ

【連載第1回】食産業を日本の基幹産業へ

公開日:2026.07.03

更新日:2026.07.02

食団連 佐藤裕久代表理事が描く「護送船団」の構想

コロナ禍を契機に2022年1月に設立された一般社団法人日本飲食団体連合会(食団連)は、初代会長・服部幸應先生の逝去という大きな節目を経て、新たなフェーズに入った。佐藤裕久代表理事(株式会社バルニバービ 代表取締役会長)が掲げるのは「日本の食産業を国家の基幹産業に押し上げる」という大きなビジョンだ。聞き手は食団連の広報メンバー、NPO法人居酒屋甲子園9代目理事長の和田裕直氏(株式会社てっぺん 代表取締役)。

業界の声を行政に届ける機関が、ほぼ存在しなかった

和田:本日はよろしくお願いいたします。まずは、食団連が立ち上がった経緯と、現在に至るまでの歩みを佐藤代表理事にお聞きしたいです。

佐藤代表理事:きっかけは2020年のコロナ禍です。「外出するな」「ついたて立てろ」と言われたとき、外食事業者が集まって「これ、どうするよ」という話になった。そのとき、業界としての声を行政や政治に届ける機関がほぼ存在していなかったということに気がついたんです。

業界全体を見渡してみると、3つ星クラスの高単価店と、定食屋や居酒屋といった大衆業態のあいだに、共有概念も共通のフィロソフィーも何もなかった。「これじゃいかん」と。だから食団連はコロナという昭和以降最大のピンチに対して、業界の苦悩を集約し、政府や行政への要望を取りまとめ、同時に「我々自身が何をすべきか」を確認する場として立ち上げました。

結果として、いくつかの議連が立ち上がり、100%ではないにせよ、外食産業はかなりいい線で守ってもらえたと思っています。

和田:居酒屋甲子園も食団連の参画団体のひとつとして関わらせていただいてきましたが[^1]、コロナ禍の渦中、業界が分断されていく感覚は、本当にリアルに感じていました。あの時期に「業界としての声」を集約できる場ができたのは、本当に大きかったです。

服部幸應先生の逝去と、「次のステージ」への決断

佐藤代表理事:2023年に新型コロナが5類に移行したタイミングで[^2]、「いったん役割を果たした」というポイントがあったんです。しかも、初代会長の服部幸應先生もお亡くなりになられてしまった[^3]。だから僕は、食団連の行く末について団体内部で意見を募ってみたところ「緊急事態の中で率先してやってきたが、これからは日本の外食の未来を担う団体として、ここからの役割の方が大事だ」との声があがりました。専務理事の高橋〔英樹〕さんだったと思いますが[^4]、その通りだなと。コロナ禍での役割を果たしたがゆえに、次のステップを担う必要が出てきた。それが今の食団連です。

 食産業は、繊維・鉄鋼・自動車・アニメに続く基幹産業になり得る

和田:これから食団連が目指すのは、どのような姿でしょうか。

佐藤代表理事:マクロのビジョンとして掲げているのは「日本の外食産業は、国際競争力を持つ重要な産業ではないか」という問いかけです。

明治以降、日本は殖産興業・富国強兵の中で、富岡製糸場を代表とする繊維産業を国策として推進した。次に鉄鋼の時代。続いて家電・消費財、そして自動車。自動車は長らく日本の外貨を稼ぐトップアイテムでした。さらにその後、アニメ・サブカルチャーが続いた。すべて、国がアシストし、優遇し、税や助成金、海外進出への特例を整え、産業保護と産業促進を進めてきた歴史です。

「食、それをやるときが来ていますよ」というのが、僕らのメッセージなんです。

理由は2つあります。1つは、インバウンドの拡大。例えばスペイン・バルセロナは市民160万人の街に、年間1,560万人の観光客が訪れている[^5]。神戸サイズの街に、その10倍弱です。だから日中に道を歩いている人たちは基本的に外国人。そういう街になっている。

日本の訪日外客数は2024年に3,687万人、2025年には4,268万人で過去最高を更新しています[^6][^7]。それでも日本全体のキャパシティで見れば、まだ伸びしろは大きい。そして来日する外国人観光客の方々は全員、必ず飯を食う。来日モチベーションの1番か2番に、確実に「食」が入っているはずです。これだけのポテンシャルがある産業だ、ということをまず認識する必要がある。

もう1つは、日本の食は輸出に足り得る文化だということ。これはレストランという単体の話ではなくて、調理法、調味料、食材、あらゆる分野で。EUの基準を満たせば日本の食材も輸出できるのに、基準が取れていなかったり、国内法との違いがあったりして、まだ流通していない領域がたくさんある。窓口としてのきっかけ作りまでは、行政にも協力をしてもらってやるべき領域だと思っています。

 和田:弊社「てっぺん」も海外からの視察を年間1万人規模で受け入れていますが[^8]、たしかに「日本の食」への関心は年々高まっている実感があります。

「圧力団体ではなく、護送船団でありたい」

佐藤代表理事:ただし、僕は食団連を「圧力団体」にはしたくない。「規制を外せ」「補助金を出せ」と要求するのではなく、食産業を日本の基幹産業の1つにしていくための「護送船団」を組みたい。そのための場でありたい。

ですから「弊社バルニバービの利益はどう考えるべきか」といった一社の都合ではなく、業界全体が良くなるための公正さ・公平さを保つ覚悟が要る。当団体の高橋専務理事がその覚悟を持っていると確信したから「ならば俺もそれを担保する。自社に肩入れせず、業界全体を見る役割は約束する」と伝えた。彼も全面的に共感してくれた。

日本のフードサービス市場は、2023年度の推計で24兆1,512億円[^9]。今後、インバウンドの内訳が変わり、客単価や飲食シーンの厚みが増していけば、業界の伸びしろはまだまだ大きい、と僕は見ています。

和田:「護送船団」というキーワードは、業界全体で共有していくべき言葉ですね。次回は、佐藤代表理事が9年かけて作り上げてきた淡路島・西海岸の現場のお話を伺います。

第一回の総括(和田)

居酒屋甲子園の理事長として、また食団連のメンバーとして、自分自身、業界全体の未来をどう描くかは、日々の経営と並走する重い問いです。佐藤代表理事の言葉は、いつも一段高い視座から「自分たちの仕事の意味」を問い直してくれます。次回は、そのビジョンを支える現場──淡路島の取り組みについて掘り下げていきます。 

出典・参考文献