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【連載第3回】大阪の子どもが、お好み焼きを焼けなくなっている

【連載第3回】大阪の子どもが、お好み焼きを焼けなくなっている

公開日:2026.09.11

更新日:2026.09.04

時給800円の弁当屋から、"食産業庁"という到達点まで

連載最終回。前2回では、食団連での深見浩一常務理事の役割と、会員支援セクションの設計図を伺いました。最終回は、その活動の根底にあるもの──学生時代の原体験、守りたい食文化、そして食団連が掲げる「食産業庁」構想までを聞きます。聞き手は、株式会社てっぺん代表取締役・居酒屋甲子園9代目理事長の和田裕直氏です。

時給800円の弁当屋から始めた

和田:そもそも深見さんが飲食を好きになったきっかけを伺いたいです。飲食のことが好きでなければ、この活動もされていないと思うので。

深見常務理事:学生時代、飲食のアルバイトをしていたんです。当時、同級生はもっと時給の高い仕事をやるんですよ。塾の講師とか家庭教師とか。週2回、2時間ずつ行けば、それなりにお金が入る。

でも僕は、学生時代に「学んできたことをアウトプットして金を稼ぐ」というのは、社会人になる前にやるべきじゃないなと思ったんです。だから勉強を教える仕事はやめようと。それで、あまり同級生がやらないような仕事をしようと思って、時給800円くらいのお弁当屋さんからスタートしました。

和田:そこからいろいろと。

深見常務理事:お弁当屋さん、居酒屋さん、フレンチ……10業態10社くらいやりましたね。

「チームができている店に、出会わなかった」

深見常務理事:そこで、ある共通項が見えてきたんです。当時、従業員満足度がすごく低かった。流行っているし、売れているし、お客さんもめちゃくちゃ来る。なのに会社の悪口を言っている、店長の悪口を言っている。ピーク中に職人同士の殴り合いが始まる、なんてこともあった。

こんなにお客さんが喜んでくれていて、素敵な商売なのに、働いているとしんどいな、と。要は、チームが全くできていない。ちゃんとチームができている飲食店に、僕は出会わなかったんです。

和田:それを仕事にしよう、と。

深見常務理事:そう。バリバリいいチームの飲食店を出せれば、仕事としても好きだし、お客さんにも可愛がってもらえるし、いいんじゃないかなと。いまで言う「従業員満足度の高い飲食店をやりたい」というのが、僕の根っこです。

和田:てっぺんでも「本気の朝礼」を通じて、スタッフ自身が輝いて働くことで、お店という空間そのものに価値が生まれる、ということを大切にしてきました[^10]。深見さんの原体験と、同じところを向いている気がします。

深見常務理事:学生時代は、当時流行っていたダンスイベントの企画・運営も任されていて、毎週水曜日が僕のイベントデーだったんです。「集客100人を切るのが2週続いたら契約終了」という条件で、これがめちゃめちゃ売れた。京都中の派手な連中が集まるみたいな(笑)。

そのときの取引先の営業担当が飲料メーカーの方で、「そろそろ就職活動やろ、何するの?」と。「飲食店に就職しようと思ってます」と答えたら、「そっか、頑張れよ」と言ってくれた。でも父親に「飲食店をやろうと思う」と言ったら、「何のために大学へ行ったんだ」と。母親は応援してくれるかと思ったら、両親そろって怒られました(笑)。

それで、その営業の方に相談したら「まずは外から飲食店を勉強したら? うちにもグループ会社があるから」と。それで飲料メーカーに入社したんですけど、配属が本社のマーケティング部で(笑)。全国のクラブに営業をかければ全国制覇できる、と息巻いていたので、当てが外れましたね。2年後に転職しまして、その会社で「店舗の立て直し」のような仕事もやらせてもらって、上場まで色々経験させて貰いました。そして29歳のときに独立して、1号店を出しました[^11]。

和田:深見さんのこの話を知っている人、少ないんじゃないですか。めちゃくちゃ面白いです。

深見常務理事:確かに、あんまりしないもんね。僕、普段は聞き手なので。

大阪の子どもが、お好み焼きを焼けない

和田:全国を巡る中で「これこそが守るべき食文化だ」と感じたものを伺いたいです。

深見常務理事:一皿というより、食べ物のジャンルとしてなんですけど、関西人なのでお好み焼きなんです。ここがなくなりそうだというのは、すごいことなんですよ。

僕、生まれは実は東京で、小学2年生のときに親の実家の近くである京都に引っ越したので、"なんちゃって関西人"なんです。その僕がびっくりしたのが、みんなお好み焼きでご飯を食べていること。「そんなメニューあるん?」と。しかもテンションが高い。「今日お好み焼きやわ」「うちのお好みはこうやねん」と、よく喋っている。

和田:食べ方そのものが、文化として共有されている。

深見常務理事:そのお好み焼きを食べない子、焼けない子が増えて、会員団体である「上方お好み焼たこ焼協同組合」さんが危惧されて、小学校での体験イベントをボランティアで実施されている。

お好み焼きだけじゃなくて、全国を回らせてもらうと、その土地のフードや歴史が、先祖代々ずっと紡がれてきているのが本当にたくさんある。うどん一つ、味噌汁一つにしても、全国にはいろんなストーリーがある。地方に行ったときにそれをいただいて、歴史を感じたり、「ああ、ここに来たな」と価値を感じたりする。

それがなくなっていきそうだ、という危機感があるんです。世界の中でも最強コンテンツである日本の食文化が、このままだと死ぬぞ、と。ここを絶やしたらいかん。この使命感が、食団連で頑張っているモチベーションの一つになっています。

和田:お好み焼きが焼けない、という課題自体を、僕らは知りませんでした。団体さんごとの、特徴ある課題感なんですね。

アンケートの「数」が、業界の声になる

和田:会員支援のセクションでは、アンケートも大きなテーマだと伺いました。

深見常務理事:次のアンケートは外国人材のテーマになると思いますが、いちばんやらなければいけないのは、アンケートの声を届けること。実際に飲食店の経営にどういうインパクトがあると捉えていらっしゃるのか、生の声をお届けしたい。それだけでなく、消費税の問題、クレジットカードの問題、社会保険の負担が増える中でどれくらいの影響があるのか、健康保険組合を作ったら入るのか入らないのか──いろんなことを会員さんを通じて伺い、ニーズを引き出して、事業化したり、課題解決のためのチームを作ったりしていきたいと思っています。

和田:個人的な質問をしてもいいですか。たとえば外国人材の雇用について、「ぜひ来てほしい」という人もいれば、正反対の考えを持つ人もいますよね。食団連が思い描いている答えと違う回答が集まってきた場合は、どうされるんですか。

深見常務理事そのままでいいと思っています。むしろ地域差も出ると思う。会員さんに聞くということは、食団連のお客様の回答になるわけで、それを踏まえたうえで「どういう政策提言をすべきか」「どうロビー活動をすべきか」という戦略検討になる。「思ったよりニーズがないんだな」となれば、その政策提言のプライオリティを下げればいい。ゴールがあってアンケートを集めるのではなく、アンケートを集めて戦略を決めるということなので、生でいいんです。

いちばん良くないのは、数が集まらないこと。一部の声の大きい人たちの声だけで、食団連としてロビー活動を始めてしまう。これがいちばん良くないと思うので、生の声を、普通に答えてもらえたら嬉しいです。

和田:先日も複数の団体の皆さんが集まる勉強会がありましたが、「数が欲しいんだ」というところは、まだあまり理解されていないと感じました。僕たちもアンケートのときは「とにかく数を集めるぞ」と。それが合言葉になるといいですね。居酒屋甲子園で1,000件、コミットします。

深見常務理事:お願いします(笑)。これまでの最高が約1,450件ですから[^12]、それを超える数を集めたい。

「庁の前に課があり、課の前に室がある」

和田:最後に、食団連が掲げる「食産業庁」の構想と、これからの展望を伺わせてください。

深見常務理事:飲食の場では「政治の話と野球の話はするな」と先輩から教えられてきましたし、それで喧嘩をされているお客様も見てきました。僕らが政治の話をするなんて、夢にも思わなかったんです。むしろ当事者どころか、文句を言って酒を飲んでいる側でしたから。ロビー活動で業界を良くしていく、という発想は全くなかった。

ところが、実際にいろんな省庁に伺い、政治家の方と話をしてみると、僕らが想像していた「舐めている人たち」ではなくて、単に業界のことをご存じないんですよ。「なんでクレジットカード比率が高いんだね?」と聞かれる。「いや、それはこっちが聞きたい」と(笑)。

和田:知られていない、ということ自体が課題だった。

深見常務理事:コロナのときに「20時で閉めろ」となったのも、要は対話する関係性や人脈、そういう経路がなかったからだろうな、と。「こういうことで困っています」というデータもない。「どれだけ潰れているかは帝国データバンクで見ています」と言われても、「いやいや、店に電話がかかってきても取らないですよ」という世界ですから。

本当の飲食店のリアルを分かっていただき、世界最強コンテンツである日本の飲食を一緒に考えていただくためには、「食産業を司る大臣」が生まれないとダメなんです。そういう大臣がいて、その方が司る庁というものが必要なんだろうな、と思っています。

和田:そう言うと、「どうせ無理だよ」と言われませんか。

深見常務理事:ほとんど言われます(笑)。でも、物事にはロードマップがあるんです。庁の前に課があって、課の前に室がある。〔※行政組織の段階を指す〕そして室を作る前に、いろんなロビー活動があり、勉強会があり、まだ公表できないような集まりがある。そういうことをやりながら、霞が関や永田町の方々の頭の中に「飲食とは何か」「飲食がこうなると世の中が良くなる」ということをご理解いただき、一緒に考えていく。

そのためには、「話を聞こう」と思っていただけるだけの"数"と"質"を作らなければいけない。数のところでは、オール外食の実現。「これだけの方が、これだけの店舗と従業員とともに、うちの団体にいます」と言えること。質のところでは、「これだけアンケートを集めました」「食団連に聞けば現場のことがちゃんと分かるな」と言っていただけるところまで持っていくこと。この積み上げをやっていくのが、今後の展望です。

その活動の中で、オフィシャルパートナーさんは商売につながればいい。みんなが困っている健康保険組合を作って回していくことで、「飲食業で働くと保険料が安いな」「病院に行ってもいいことがあるな」「家族へのケアが厚いな」という状態を作っていければと思っています。

和田:深見さんご自身としての展望はいかがですか。

深見常務理事:僕は5か国20店舗、海外にチャレンジしてきました[^13]。日本の飲食が本当に強いコンテンツで、どれだけ愛してもらえるかは現場で実感しています。そういうものを国にも応援していただきながら、食団連に加盟していただいた店舗さんが、より外国の方に愛されるように、インバウンド・アウトバウンドの両面で頑張っていければと思っています。「いま飲食業で働くと、こんないいことがあるぜ」という世界観を作っていきたい。それが僕の展望です。

取材を終えて(和田)

時給800円のお弁当屋さんから始まった一人の学生が、「チームができている店を作りたい」と願い、いまは業界全体のチームづくりを担っている。3回にわたって伺って、その一本の線がはっきり見えました。「食産業庁」という言葉だけを聞くと遠い話に思えますが、深見さんの中では、室があり、課があり、庁がある、という具体的な段取りとして描かれています。そしてその第一歩は、僕たち一人ひとりがアンケートに答えることのような、地味で確実な積み上げです。まずは1,000件、居酒屋甲子園としてもコミットします。深見さん、ありがとうございました。


出典・参考文献

  • [^10]: 株式会社てっぺんは「日本一元気な居酒屋をつくる」「居酒屋から日本を元気にする」をビジョンに掲げ、公開朝礼(本気の朝礼)で知られる。株式会社てっぺん 企業情報 https://teppen.co/company.html

  • [^11]: 深見氏は京都大学卒業後、大手飲料メーカーに就職。2年間勤務後に飲食コンサル会社へ転職し、2006年に株式会社PrunZを設立。一般社団法人日本フードビジネス国際化協会「JIFAとは」 https://jifa.or.jp/about/

  • [^12]: アンケート回答数は2026年7月24日時点の深見常務理事の発言に基づく。最新の実施状況は食団連公式サイトを参照 https://shokudanren.jp/

  • [^13]: PrunZは「炎丸」ブランドを中心に日本とアジア5か国で店舗を展開。BEST RESTAURANT JAKARTA 2015/HONGKONG 2019受賞。一般社団法人日本フードビジネス国際化協会「JIFAとは」 https://jifa.or.jp/about/