渋谷の路地裏で、今日も一軒の店が火を入れる。
仕込み、営業、片付け。
その合間に、本来なら考えたくもない仕事が山ほどある。
広告、SNS、レビュー対策。
「やらなきゃいけないのは分かっている。でも、正直そこまで手が回らない。」
そんな飲食店の本音を、誰よりも理解しているのがPR支援サービス「モグカツ」を運営する株式会社MOGUKATSU 代表 黒石 幸治さんだ。
なぜなら彼自身、長年“現場側”に立ち続けてきた飲食店経営者だからである。
「僕は、飲食店側の人間なんです」
「僕、もともと飲食店側の人間なんですよ。」
インタビューの冒頭、そう切り出した言葉がすべてを物語っている。
22歳で起業し、渋谷と沖縄を拠点に焼肉店や居酒屋を複数店舗展開。
決して順風満帆な道のりではなかった。
「渋谷で焼肉屋を出したのが、コロナ直前だったんです。
オープンしてすぐ緊急事態宣言。
売上は立たないのに、毎月何百万円も赤字が出ていく。」
補助金や融資をかき集め、必死に店を守る日々。
その中で、彼は強烈に考えさせられたという。
――飲食店のPRは、なぜこんなにも大変なのか。
広告は“瞬発力”、でも残らない。
「グルメサイトや広告が悪いとは思っていません。
瞬発力はあるし、すぐ集客はできます。」
だが一方で、違和感もあった。
広告を止めた瞬間、何も残らない。
レビューは増えず、検索にも引っかからない。
日々の営業で手一杯な中、SNS投稿やレビュー管理までやり切れる店はごくわずかだ。
「多くのお客さんは、レビューを書かないし、投稿もしない。結果、情報が蓄積されないんです。」
この“積み上がらない構造”こそが、飲食店のPRを難しくしている本質だと気づいた。
「人が人を呼ぶ流れ」を、あなたの店にも。
そこで着想したのが、モグカツの仕組みだ。
コンセプトは明快。
「繁盛店で起きている“人が人を呼ぶ流れ”を、仕組みで再現する」。
モグカツがマッチングするのは、フォロワー数だけを誇るインフルエンサーではない。
料理そのものを主役に発信する“グルメ系クリエイター”たちだ。
彼らが通常の客として来店し、通常通り食事をし、通常通り支払い、その体験をリッチなレビューや投稿として残していく。
「店頭でのイレギュラーな対応は一切ありません。だから現場が混乱しないし、店の空気も壊れない。」
結果として、レビュー、SNS投稿、検索に強いコンテンツが自然と蓄積されていく。
PRは“冷蔵庫”と同じでいい
彼の比喩が、実に分かりやすい。
「店を開くとき、冷蔵庫を買いますよね。最初はサイズや性能を気にするけど、使い始めたら毎日冷蔵庫のことなんて考えない。」
PRも同じでいい、と彼は言う。
飲食店が本当に集中すべきなのは、料理、サービス、空間づくり。
PRは“基本設備”として、裏で回っていればいい。
「PRのことは、忘れてほしい。忘れても回る状態をつくるのが、モグカツです。」
登録作業からマッチング、投稿管理まで、運用はすべてモグカツ側が担う。
店側がやることは、いつも通り営業するだけだ。

初動を回せば、すべてが良くなる
特に力を発揮するのが、開業直後の店だという。
「オープンしたばかりの店は、コンテンツも認知もない。客が来ないと食材も回らないし、結果としてレビューも悪循環に入る。」
だからこそ、初動で店を回転させることが重要だ。
客が入り、食材が回り、料理の質が安定し、スタッフのスキルも上がっていく。
「回り始めると、全部が良い方向に行くんです。」
これは机上の理論ではない。
彼自身の店で実証済みの感覚だ。
食団連への参加、その根っこにある想い
モグカツが日本食産業連合会(食団連)に参加した理由も、極めてシンプルだ。
「飲食業界を、盛り上げたいんです。」
営業電話も広告も届きにくい飲食店。
だからこそ、信頼できるつながりの中で、本当に困っている個店にモグカツを届けたい。
「報酬はいらないので、業界を守る活動があれば手伝わせてほしい、とお伝えしています。」
近所で閉店してしまった老舗の蕎麦屋。
「潰れてほしくなかった店」が、静かに姿を消していく現実。
それが、彼の原動力になっている。

PRを手放した先にある未来
「PRをインフラ化できれば、飲食店はもっと面白くなる。」
余計な業務から解放され、店主は料理に没頭できる。
サービスは磨かれ、ユニークな個店が生き残る。
「そうなれば、自然と業界は活性化すると思うんです。」
PRを頑張らなくていい世界。
その先にあるのは、料理人が料理に集中できる、健全な飲食業界の姿だ。
モグカツがつくろうとしているのは、目立つ広告ではない。
静かに、しかし確実に店を支える“裏方の仕組み”。
今日もどこかで、PRのことを忘れた店が、最高の一皿を出している。
株式会社MOGUKATSU
代表取締役 黒石 幸治さん