各地域支部長をインタビューする本連載。第3回目は山陰支部長のかばはうすホールディングス株式会社代表取締役社長・松田幸紀さんにお話を伺いました。鳥取と島根を一つにするという難しい組織づくりから、行政との関係構築、「泊食分離問題」などの地域課題解決に向けた動きなど、具体的な取り組みについてお話しいただきました。(聞き手=食団連地域統括本部長・山崎聡氏)
かばはうすホールディングス株式会社 代表取締役社長 松田幸紀氏

1974年7月6日、鳥取県米子市生まれ。京都の調理学校を卒業の後、洋菓子店でパティシエになるため2年間修行を行う。母が経営していた居酒屋の運営を打診され、経営を引き継ぎ平成5年に創業。
豪快な刺身盛り「かば桶盛り」を名物に、「山陰海鮮炉端かば」を山陰地方から都内へ展開。平成28年に海外出店に踏み出しラーメン屋を開店。現在は、炉端かばを筆頭に多様な居酒屋業態、品川ゴールデン横丁・焼肉・回転寿司・ベーカリーなど国内31店舗・海外2店舗を運営する。
生まれ育った山陰地方の地域貢献にも尽力し、「山陰活性化プロジェクト」を企画。歌舞伎の講演や、こども食堂などを行う。
コロナ禍で芽生えた強い問題意識から支部設立へ。鳥取と島根を一つにする組織づくりとは?
地域支部統括本部長・山崎聡氏:松田支部長、本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、山陰支部設立に至った経緯を教えていただけますか?
松田幸紀氏:ありがとうございます。山陰支部設立のきっかけは、新型コロナの影響下での補助金支援が不十分だったことです。特に鳥取県では一度も補助金が支給されず、島根県も20日間のみの支援に留まりました。この不平等な状況に対して、当時は個人で議員に直接訴えかけていましたが、団体としてまとまる必要性を痛感しました。悔しい思いを共有したことが、山陰支部設立の原動力です。
山崎:鳥取と島根の2県を連携させる中で、運営面での工夫やご苦労があったのでは?
松田:そうですね。私は鳥取生まれ、島根育ちで、現在も両県で飲食店を経営しています。この背景が橋渡し役としての役割を果たしました。鳥取と島根をそれぞれ東部、中部、西部に分け、各地域に理事を一人ずつ配置する組織構造を作りました。また、代表副会長を両県から選出し、偏りなく運営できる体制を整えています。理事選出の基準は、行政に対して問題意識を持ち、地域で影響力のある方々に声をかけました。
山崎:声を掛ける人はどういう基準で判断していったんですか?
松田:まずはこのコロナ禍の不平等な状況に対して、強い問題意識と行政に対する意見を持っている人。さらに、エリアごとに影響力がある人、となるとかなり数が絞られました。
山崎:なるほど。みなさんの強い問題意識が、活動の熱量に繋がっているのですね。
宿泊業界と組み「泊食分離問題」解決へ。山陰の食ブランドを全国へ

↑年3回例会開催時、山陰支部理事の集合写真
山崎:山陰地域の課題はどのように捉えていますか?
松田:山陰支部設立の大目的は、次の有事に備えるということにありますが、実はこれまで鳥取と島根が一緒に何かに取り組む、ということはあまりなかったんです。地形的にもかなり横長の地形で気候や文化も異なります。そんな中でワンチームとして各地域における課題を丁寧にすくい上げ、山陰支部として取り組むべき課題を設定していくことがまず重要になってきます。例えば、鳥取県は高校生のアルバイトが原則禁止されています。ただでさえ人手不足が深刻な状況ですので、取り組むべき課題の一つとして捉えています。ほかにも課題は山積していますが、支部で議論を重ねて、様々な地域の課題解決に向けて取り組んでいく予定です。

↑例会後の懇親会の風景
山崎:課題抽出のための議論はどれくらいの頻度で行っていますか?
松田:毎月1回以上はやっています。理事会は月2~3回やっていますね。最近の新しい動きとして、島根旅館組合の会長を新しい理事としてお迎えすることになりました。宿泊業界も人手不足が深刻で、「宿泊してもらいたいけど、連泊で毎日ちがったメニューのお食事を出すのが難しい」という課題を抱えています。いわゆる「泊食分離問題」ですね。地域の飲食店で宿泊ゲストの食の受け皿になれれば、地域観光活性化にも貢献できますし、飲食業界にとっても大きなチャンスになり得ます。新しく島根の宿泊業界トップを理事にお迎えすることで、他の地域に先駆けて宿泊分離解消に取り組めると考えています。
山崎:それは素晴らしいですね。ところで、山陰支部の中長期的な目標について教えてください。

↑山陰支部設立時の同支部紹介資料より抜粋
松田:今年は山陰支部の第2期目ですが、設立当初から、「一番小さな山陰の声を全国へ」というのを最大のテーマに掲げてきました。これに準じるものをその年に応じて単年度で掲げています。
具体的な中長期目標の一つに、例えば「山陰地域の食のブランド力向上」を掲げています。現状、「グルメの旅先」として認知されているのは、北海道や京都、北陸あたりですが、鳥取や島根も負けないポテンシャルを持っています。地元で採れる海の幸や山の幸は素晴らしいものが多いです。「どの飲食店に入っても美味しい」と思ってもらえるエリアを目指し、地域全体のブランド力を高めることが目標です。

↑山陰支部会員に配布される会報誌「山陰飲食の会通信」
山崎:具体的な取り組みとして、どのような活動をされていますか?
松田:例会を年4回開催するほか、懇親会や東京遠征などでメンバー間の交流を図っています。支部内の勉強会に物語コーポレーション元代表の加治さんをお招きするなど、外部の業界リーダーとの連携も進めています。こうした活動が、支部内のモチベーション維持にもつながっていると考えています。
「組織図」と「初動」が最重要。行政への働きかけと今後の展望
山崎:行政との関係構築も重要ですね。現在どのような働きかけを行っていますか?
松田:まず山陰支部設立自体に大きな意義を感じていただけたようです。「飲食業界がやっと一つになったか」と。支部設立総会には、鳥取・島根選出の国会議員の方々や地元メディアから多くのご支援をいただきました。設立のニュースはすべての地元メディアに取り上げていただいたおかげで、知事や県議会にも強く存在をアピールでき、スムーズに話し合いが進められるようになりました。現在は、劣後ローンの改善や高校生アルバイト禁止問題、奨学金制度の見直しなど、地域の課題解決に向けた提言を積極的に行っています。
山崎:地域の飲食業界が一丸となり、声を上げることの重要性が伝わります。最後に、他地域支部へのメッセージをお願いします。
松田:地域支部の活動で一番重要なのは、「組織図」だと思います。エリアごとに影響力のある理事を配置することで、団結力を強化できます。また、設立時などの初期段階で行政やメディアをできるだけ巻き込み、存在を大きくアピールすることが、その後の運営に大きく影響していきます。「組織図」と「初動」に特に注力し成果を上げることができれば、支部の目標に向かってともに歩を進めていける強い組織になると信じています。