日本の料理は、世界で高く評価されている。
寿司も、ラーメンも、焼鳥も、和牛も。
海外では日本人が想像する以上の価値で受け入れられ、憧れの食文化として愛されている。
それなのに、その料理をつくる日本の飲食店は、国内市場だけを見つめていることが少なくない。
「海外に興味はある。でも何から始めればいいかわからない。」
そんな声を、ミツカル株式会社USA事業部の田中大樹氏は何度も耳にしてきた。
海外進出は、一握りの大企業だけのものではない。
その思いを胸に、同社は今、日本の中小飲食店を世界へ送り出すための新しい挑戦を始めている。
世界には、日本の味を待っている人がいる
海外進出と聞くと、多くの飲食店経営者は身構える。
英語ができない。
現地の法律がわからない。
出店資金も膨大だ。
「自分たちには関係ない。」
そう考えてしまうのも無理はない。
しかし田中氏は、その考え方こそ変えたいと言う。
「まず知っていただきたいのは、日本の食には海外で確かな需要があるということです。」
和食はユネスコ無形文化遺産にも登録され、世界中で評価される存在になった。
それでも日本の飲食店は、その価値を十分に生かし切れていない。
国内で価格競争を続ける一方、海外には日本食が高価格帯でも受け入れられている市場もある。
「海外を知ることで、自分たちの商品価値を改めて認識できる経営者も多いと思います。」
海外進出とは、単に販路を増やす話ではない。
自店の価値を、世界基準で見つめ直すことでもある。

「海外へ行く前」に必要なのは、会社ではなく経験
ミツカルがユニークなのは、「いきなり海外出店」を勧めないことだ。
まず行うのはマーケット分析。
現地で本当に売れる商品なのか。
どのエリアが合うのか。
誰が買うのか。
その可能性を丁寧に調べる。
興味を持った企業には、現地販売を代理店として支援し、市場性を検証する。
そして手応えが見えた段階で、子会社設立や店舗展開、あるいは現地企業との提携やM&Aといった選択肢を、専門家とともに検討していく。
「海外進出を一部の大企業だけのものではなく、中小企業や専門店にも開かれた道にしたい。」
その言葉には、挑戦へのハードルを少しでも下げたいという強い意思が込められている。
テキサスという、新しい日本食市場
今年、ミツカルはアメリカ・テキサス州ダラスに現地法人を設立した。
なぜニューヨークでもロサンゼルスでもないのか。
理由は明快だ。
人口が増え続け、企業投資が集まり、州の法人所得税・個人所得税がないという世界有数の成長マーケットだからである。
もっとも、州のフランチャイズ税や連邦法人税は別途課される。税負担は事業の規模や形態によって変わるため、進出前に専門家の確認が欠かせない。
トヨタをはじめ世界企業が拠点を置き、イーロン・マスク率いるSpaceXもテキサスへ移転した。
世界中の資本が集まる場所では、人も集まり、食文化も求められる。
「今後さらに伸びる市場だからこそ、日本食にも大きなチャンスがあります。」
田中氏はそう語る。
百聞は一見にしかず
海外進出を考える経営者へ向け、ミツカルは現地視察ツアーも開催している。
目的は、観光ではない。
「現地のマーケットを自分の目で見てほしい。」
それが最大の目的だ。
和食店の価格帯。
客層。
店舗デザイン。
現地消費者の反応。
写真や資料だけではわからない現実を体感する。
「日本では高いと思っていた価格でも、海外では普通に受け入れられている。」
そんな発見が、経営者の価値観を変える。
海外進出は会社をつくることではない。
まず世界を知ることから始まる。
出店より難しいのは、続けること
海外で店を出す。
しかし本当に難しいのは、その後だ。
銀行口座を開く。
物件を探す。
ビザ・在留資格。
税務。
法律。
採用。
日々の経営。
さらに異国で暮らす孤独もある。
そして、海外進出に確実な成功はない。
為替の変動。想定を超える初期投資。現地の人材確保。撤退という判断が必要になる場面もある。
だからこそ、いきなり出店するのではなく、小さく試し、検証してから進む順序が要る。
だからミツカルは、出店支援だけで終わらない。
現地の弁護士、会計士、税理士、銀行、不動産会社、日本人コミュニティとのネットワークを構築し、必要に応じて各分野の専門家を紹介しながら、事業と生活の立ち上がりを支える体制を整えている。
法務や税務、会計の判断そのものは、あくまで現地の有資格者が担う。ミツカルの役割 は、その橋渡しと、日々の実務に寄り添うことだ。
「お客様を現地へ連れて行って終わりにはしたくない。」
その言葉が印象的だった。
海外進出は、孤独との戦いでもある。
だから伴走者が必要なのだ。
食団連とともに、世界へ
ミツカルが食団連に参加した理由も、そこにある。
食団連には、全国の飲食店や業界団体のネットワークが集まる。
その現場力と、ミツカルが持つ海外実務を掛け合わせれば、日本中の個店にも世界への扉を開けるはずだ。
「食団連のネットワークと私たちの海外支援を組み合わせることで、小さな飲食店にも海外へ挑戦する選択肢を届けたい。」
それは単なる海外出店支援ではない。
地方の名店。
家族経営の一軒。
長年愛される専門店。
そんな店にも世界へ挑戦する未来を届けたいという願いだ。
日本の食文化を、世界の文化へ
海外進出という言葉は、大きな企業だけのものと思われがちだ。
しかし本当に海外で求められているのは、大量生産されたチェーン店ではない。
一杯のラーメン。
一串の焼鳥。
一皿の定食。
日本人が毎日当たり前に食べている料理こそ、海外では特別な体験になる。
だからこそ田中氏は言う。
「海外展開を一部の企業だけのものではなく、小さなお店にも開かれた道にしたい。」
その一歩を踏み出す店が増えれば、日本の食文化はもっと世界へ広がっていく。
料理人は料理を磨く。
経営者は店を育てる。
そして、その挑戦を世界へつなぐ伴走者がいる。
ミツカルが目指しているのは、単なる海外進出支援ではない。
日本の食文化が、国境を越えて受け継がれていく未来を、一軒一軒の飲食店とともにつくることなのである。
取材協力
ミツカル株式会社USA事業部
田中大樹氏