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「喉元過ぎれば熱さを忘れる」への処方箋。武相支部が地元産ビールを“組織の接着剤”に選んだ理由

「喉元過ぎれば熱さを忘れる」への処方箋。武相支部が地元産ビールを“組織の接着剤”に選んだ理由

公開日:2026.01.29

更新日:2026.01.28

各地域支部長をインタビューする本連載。第2回目は武相地域支部長の株式会社キープ・ウィルダイニング代表取締役・保志真人さんにお話を伺いました。地元産クラフトビール醸造所「武相ブリュワリー」を設立し、行政、企業間の関係構築を進めている武相支部。どのように賛同者と資金を集め、ブリュワリー設立までに至ったのか、そして、その先に目指す構想やビジョンについてお話いただきました。(聞き手=食団連地域統括本部長・山崎聡氏)

株式会社キープ・ウィルダイニング 代表取締役 保志真人氏

1974年、横浜市生まれ。居酒屋チェーン・レストランで店長などを経験後、会社設立の自己資金を貯めるためにトラック運送業で従事。2004年(株)キープ・ウィルダイニング設立。町田~相模原エリアを中心に多彩な業態を開発しドミナント展開。地域密着経営で現在、グループ全体で9社56店舗を運営中。

武相ブリュワリー  https://www.buso-brewery.com/kawasemi-brew
武相飲食経営審議会 https://www.kwg-waiwai.com/busofooddrink-tm

地元の「食」を守り、育て、街の活性化を目指す武相支部

▲武相飲食業経営審議会設立総会にて

地域支部統括本部長・山崎聡氏:保志さん、お時間ありがとうございます。さっそくですが、まずは武相支部設立にいたった経緯を教えていただけますか?

保志真人氏:私たちも他地域支部と同様にコロナがきっかけでした。当時、飲食業界の中で様々な動きがありましたが、行政関係者に私たちの現状や要望を聞き入れてもらっている感じがしませんでした。そこで、地域の飲食関係者に声をかけ、選挙や政治に対して意見を持つ団体が必要だと感じ、立ち上げました。

山崎:設立はいつごろですか?

保志:2022年6月ですね。町田・相模原エリアの飲食関係者に声をかけ、60店舗で武相飲食業経営審議会(現・食団連武相支部)を設立しました。設立当初から掲げている私たちの取り組みとしては、以下の3つです。

  1. 武相の食文化向上

  2. 地域飲食業界に関わる政策提言

  3. 学びの共有

“海外や地方に旅行に行った時、その土地を感じるのは
まずは景色や気候、建造物。そして街並みだと思います。
街並みは飲食店が作っていたりします。

​多くの人は、飲食店で食べた地元の「食」、飲食店で働く「人」をとおして
その土地の風土・人柄・地域を感じるものです。

地域に根付く飲食店同士は敵ではなく、街を共に盛り上げる仲間だと考え
定期的な勉強会開催や地域食材・食関連の共有により 地域外食の活性化を図り
共に地域の食文化を形成し 共に成長し、共に勝てる地域・業界へと変化を図りたいと思っています。

数多くの人が働き、多くの人が関わる飲食業界である私たちの役割は
もっと誇れるものであり、街を彩るために欠かせないものです。
地域食文化の向上と街の活性化を共に。” ー 武相飲食業経営審議会HPより抜粋

地元産クラフトビールで街を繋ぐ「武相ブリュワリー」設立

山崎:武相支部として地域的な課題をどのようにとらえていますか?

保志:地域の中心部に地元のお店が少ないというのは私たち地域の1つの課題だと考えています。駅前や中心部には県外のチェーン店が軒を連ね、キャッチや呼び込みが跋扈しゴミを散乱させていたりなどカオスな現状も一部であります。夜の街には人が集まり経済が活性化するという良い側面もありますが、治安悪化に繋がったり美観を損ねますので、そこでしっかりとゾーニングするなどして子連れのファミリー層や女性客が安心して楽しめる街づくりにする事が必要です。

山崎:なるほど。地域飲食店の活性化は街づくりという観点からも非常に重要な意味を持っていますね。支部運営については、なにか課題を感じていますか?

保志:武相支部を立ち上げましたが、まだ手探りの中運営している状況です。世界的なパンデミックが起き、みな同じ強い危機感を持って集いましたが、その危機感も喉元すぎれば忘れてしまう。いかにリアルな危機感を持ち続けられるか、という事は業界的な課題でもあります。政治や経済といった話題について、私たち飲食業界の中でこれまで活発に議論がなされてこなかったので、苦手意識もあるのかもしれません。そこで切り口を変え、参加者の関心を引き続けられるプロジェクトを立ち上げ、楽しみながら仲間を増やしていける地元産クラフトビールづくりに行き着いたわけです。

▲食団連武相支部のミーティングにて

山崎:武相ブリュワリーの立ち上げですね。構想から設立まで非常にスピーディに動かれていましたね。武相ブリュワリーを通じて達成したい武相支部の目標や活動目的について教えていただけますか?

保志:一方で、ビールづくりは政治的活動と分けて考える必要があるため、ブリュワリー活動は武相飲食業経営審議会と完全に切り分けており、主に武相支部メンバーで別法人をつくり活動しており、趣旨が違う事はハッキリお伝えしておきます。その上で、地元産ビールで地域の飲食店を繋げていくことを目的とし、武相ブリュワリーのビールが飲めるのは地元の飲食店だけとして「これが地元のお店ですよ」ということを、ステッカーなどを掲示して、地元消費者に認識してもらう。そうやって地域の飲食店と消費者を繋ぎ、地域が活性化する好循環をつくっていくことが目標です。

山崎:素晴らしいですね。賛同者が楽しんで取り組める、というだけではなく、その根底には地域の人たちで、地域経済を活性化させていく、という戦略があったんですね。

保志:そうですね。今は12社でやっていますが、今後はクラフトビールが出来た段階で、地域の飲食店への卸売り体制を構築します。そこで想いに賛同し仕入れる事を表明してくれている地元飲食店さんを「賛同店舗」として、武相ブリュワリーのHPに掲載していく予定です。そうやってどんどん武相の仲間を増やしていき、地元の飲食企業が一堂に集う総会やイベントを定期的に開催し、行政関係者や食団連関係者にも参加してもらって、団体としての“声”を対外的にも可視化していく。

武相飲食業経営審議会では、選挙のタイミングで「選挙割」を展開したり、業界の声を政策提言で示していくなどしていきます。賛同者が増えればそういったインパクトを出していけると考えています。コロナのような危機がまた訪れた時に、何もやってなかった、とはもう言いたくありませんからね。

山崎:クラフトビールの名前を公募するという企画、面白いですね。

保志:1,200通ほど応募いただき、その結果、「カワセミブリュー」に決定しました。カワセミは町田市の市の鳥なんですよね。今、商品や10月ごろオープン予定の武相ブリュワリーのフラッグシップ店のデザインを進めている段階です(2024年7月時点)。

▲武相ブリュワリーのビール名募集企画

ビールを起点に地域の事業者、行政と関係構築

山崎:これまで行政との関係構築はどのように行ってきたんでしょうか?

積極的にこちらからアクションをとる、ということはしていませんでした。ただ、今回の武相ブリュワリープロジェクトの資金確保のために、総務省が出している「ローカル10,000」という助成金があり、町田市を通じて応募していただいた経緯があります。町田市は、私たちのこのプロジェクトを主要政策の一つとして打ち出してくださり、その結果、ローカル10,000からプロジェクト資金の一部を助成していただきました。

山崎:地元産クラフトビールを基盤に行政と関係性を構築していったわけですね。

保志:そうですね。このブリュワリー事業を通じて、少しずつ行政関係者の方々とつながっていきました。行政側も食に関連する課題を相談する先が現状ない、と感じています。飲食業界に関連する課題を行政と一緒に解決していける団体になれたら、と思っています。そのために、今のメンバーだけではなく、武相ブリュワリーの「賛同店舗」として仲間をさらに募っていきます。そうすることで次のステップにいける、と考えています。

山崎:なるほど。地域の飲食関係者、行政関係者と武相ブリュワリープロジェクトを通じて、徐々に関係を深化させているということですね。ところで、武相支部が掲げるビジョンを教えていただけますか。

先ほど申し上げた通りですね。「地元店」であることに誇りをもって応援できる街づくりをしていきたいですね。武相ブリュワリープロジェクトの次のステップとして、醸造所の量産体制を整えていきます。そして、できたビールを地元の飲食店に卸していく。町田にはサッカーチーム「FC町田ゼルビア」やフットサルチーム「ぺスカドーラ」もあるので、盛り上がりに貢献していきたいですね。このプロジェクトを通じて、地域の事業者、住民、行政と関係を深めていきたい。武相飲食業経営審議会から適切に政策提言など声をあげていけるようにしていく。これがビジョンです。

▲食団連武相支部のミーティングの様子

山崎:これまでの地域支部活動を通じて得られた成果はありますか。

「志」や「ビジョン」というものの加速力を感じています。あっという間に事が進んでいきましたし、通常では考えられないほどの好立地の物件も資金も借りられました。人の心を動かす「志」が事業の軸にあって、周囲に共感してもらえると、ものすごいスピードで動くんだな、と。とても1社ではできないことだと感じています。

山崎:今、武相地域支部のメンバーは12社だとお伺いしていますが、立上げから変わっていないんですね。

保志:そうですね。今はまだ準備が足りないため12社のままですが、これから武相ブリュワリープロジェクトを通じて仲間を増やしていこうと話し合っています。

山崎:仲間を集めていくためにはどうすればいいのか、課題を感じている地域支部も多いと思います。なにかアドバイスがあればお願いします。

保志:食団連は50以上の団体から構成される連合会であり、まだまだ立上げ段階でもあるので、具体的なトピックに対して強いメッセージやミッションを発信するのは難しいと思います。その中で地域支部の役割が曖昧にならないように動いていくのは、やはり難易度が高いと感じる方も多いでしょう。

そんな今の状況下で、「この地域支部に関わる人たちが盛り上がれることは何なのか」と考えた結果、私たちの場合は「地元産クラフトビール」だった、というわけです。みなさんの地域にもそれぞれ異なる課題があると思います。課題に対するアプローチも地域ごとに異なる。そこをしっかり議論していくことが重要だと思います。

山崎:最後に、他地域支部に対するメッセージをお願いします。

保志:食団連も飲食業経営審議会(現・地域支部)もコロナをきっかけに立ち上がった団体です。当時は、みんなが危機感を持って動いていましたが、その危機が喉元を過ぎた今こそ、熱さを忘れないようにしたいですね。次の有事の際、政治や社会情勢に振り回されるだけの業界になってはならないと思います。同じ飲食業の仲間として各エリアで出来る事を動いていけたら幸いです。

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記事担当ライター